自転車利用促進
自転車政策・自転車計画
古倉宗治(こくら むねはる)
自転車は健康医療福祉のまちづくり・コンパクトなまちづくりに必要不可欠です。
健康によく、環境にやさしい自転車利用を推進するには、行政が徹底して、自転車利用者を優遇すること、これをクルマ利用者にも分かるようにすることが重要になってきています。
1.自転車施策の限界(自転車環境の整備だけでは進まない)
自転車利用を推進するために、立派な走行空間を用意する、自転車利用の健康環境によいメリットを説明する、放置・ルール違反等の自転車利用のマイナス面を減少させるなどハードソフトの自転車利用環境を整備する施策が行われています。しかし、これらの施策を展開し、利用環境を整えても、一定の水準にまでは高まりますが、クルマ社会の中では、自転車利用はそう簡単には伸びず、限界があることがだんだんと欧米先進国や都市の経験からわかってきました。これは2000年代の後半です。
自転車利用者はもちろん、自転車を利用しない人(クルマ利用者等)も、単にハード・ソフト面の自転車の利用環境を整備すること、自転車利用のメリットを呼びかけることだけでは、多数の人々を自転車に引き止め、又は誘引することは最終的に難しいのです。両方とも、自転車利用のメリットはもちろんすでによく分かっていて、環境も整備されつつあることも十分承知しています。
しかし、これだけでは、自転車の利用に転換する人は一部にとどまり、多数の人を自転車に誘引することは難しいのです。健康環境等の観点から、まちのクルマから自転車へ転換してもらうためには、自転車がクルマよりも利便性や快適性がより高いことが必要なのです。この辺をしっかりと理解して押さえることが必要です。自転車とクルマが同じくらいの利便性や快適性を持っているとしたら、多数の人は、現状のクルマという交通手段を変更する必要は別に感じないのです。また、健康や環境のメリットはすでに聞きなれていて、訴求効果が期待できません。
2.自転車利用者の優遇の見える化が不可欠
このためには、クルマを運転していて、これが明確に認識できるようにすることが必要です。広報紙やホームページで呼びかけても、現実感がありません。現実に、道路上で、自転車のほうが相対的に利便性がある、快適であることが分かるようにすること、すなわち、自転車の優遇が「見える化」されている施策が必要です。コペンハーゲンやロンドン、オランダなどでは、2010年代には、すでにこのことを感じて、自転車をクルマよりも明確に優遇する施策を展開しています。
自転車の走行空間は、道路空間があるところは二車線以上の幅(片側)にすること(並走できて、お互いが会話ができるなど)、路面はコーヒーがこぼれないような快適さを確保すること、雪が降った時は一般車道よりも早く除雪したり、車道側に雪を放出することなどをしていることなどの例もあります。また、クルマでは遠回りになりますが、自転車は徹底してショートカットの空間を用意して、時間的にも優位にすること、自転車を車道でクルマと対等ではなく、それよりも優先すること(自転車に道路空間を譲るハードソフト面の方策)などを通じて、クルマ利用者がうらやましいと思わせるような明確な施策を講じて、自転車利用者の満足度を向上し、相対的にクルマの快適性等よりは上になるようにすることで、初めて、クルマから自転車への転換が図れるのです。
3.自転車を推進するためにはしっかりとした交通政策上の位置づけが必要
このようにするためには、近距離では、自転車がたくさんの具体的なメリットがあることを大義名分として、自転車をクルマよりも相対的に優遇する位置づけを持つこと、これを計画上で示すことが不可欠です。これがないと、自転車の満足度をクルマよりも高くできないのですから、転換はできません。欧米先進国や都市では、これに気付いて、自転車の位置づけや自転車の優遇策を用意するようになりました。
4.満足度のトップは車道での安心感の提供
我が国では、自転車の満足度がクルマよりも高くなるには、自転車の安全性も重要ですが、これを基本にした走行の「安心」です。自転車事故の件数は、歩車道の区分のある道路(交差点以外)での歩道上と車道上では、歩道上の事故の方が多くなってきています。また、歩道上では、歩行者との事故よりも、沿道の駐車場等のから出てくるなどの自動車との事故の方が9倍強と圧倒的に多いのです。さらに、車道で正規に左側通行していて後ろからクルマにひっかけられる事故はわずかで、自転車の車道事故の大半は、右側通行や不規則通行などに起因すると思われる形態で生じています(右側通行に起因する出会い頭事故など)。これに加えて、車道よりももっと事故が多い交差点について、歩車道が分離されている交差点の場合、歩道から進入する自転車は、車道から進入する自転車に比べて、クルマから見えにくいため、出会い頭事故や左折巻込みなどの事故が多いのです。すなわち、自動車との事故を回避しようとして歩道を通るとかえって、歩道上及び歩道から進入する交差点での自動車との事故にあう可能性が非常に高いことが分かってきています。
しかし、この根拠となる数値データを示すと、一定は理解していただけるのですが、しかし、交通量の多寡によりますが、怖い、危険だという感覚は払しょくできず、歩道を選択することが多いのです。自転車利用者は、自転車という車両を運転するという責任をわきまえて、車道でルールを守って通行するべきですが、これは、上に述べたような、自転車を車道での専用の空間の提供や徹底した管理面、ソフト面での自転車の優遇から得られるる「安心」に裏打ちされる満足度に係ってきます。
5.自転車に対する優遇の見える化による自転車政策の展開
これから自転車政策に本格的に着手される場合には、このような点を十分に理解していただき、自転車利用者はもちろん、クルマ利用者に対しても、自転車のほうが高い満足が提供されていることが見えるようにすることが重要です。具体的には、各自治体により、内容や方法が異なると思いますが、基本はしっかりと抑えるひつようがあります。
6.高齢化社会での自転車の活用は無限大
高齢者に対して宅配の弁当を配達し始めたところ、健康寿命のある元気な高齢者も食料品の買物等の外出が少なくなり、かえって健康状況が低下したという報告があります。すなわち、高齢者の健康状況や運動能力の可能性に見合った方法や手段が提供される必要があり、自ら運動能力があるのに、利便性のある手段が提供されるとその能力の減退の可能性が出てきます。高齢化社会での自転車活用は、その人の能力に応じて適切な運動を実践することが可能な移動手段であり、これを使えば健康寿命の延伸、元気な高齢者の拡大、買物難民、医療難民、引籠り等からの脱却、生活習慣病、認知症、介護の予防等の観点から、最も有力な身体活動です。また、自転車による移動手段の確保は、自分の好きな時間に、好きな場所に、自分の力で行ける(袋井市の電動アシスト自転車を利用した高齢者等95名のアンケート調査によると、高齢者の行ってもよい片道の距離の平均は、徒歩で575mで、普通自転車で2.4km、電動アシスト自転車で3.9kmとなっています)など外出、移動の手段の多くをカバーできる運動手段としても、最も有力なものです。今後健康医療福祉のまちづくりやコンパクトなまちづくりにも中核的な役割を図ることが期待されます。高齢者を自転車から遠ざけるのではなく、自転車事故の人口比率も他の世代よりも同じか低い高齢者の自転車利用をより安全にする電動アシスト自転車や転倒しない三輪自転車、さらにヘルメットの活用、講習会の徹底受講等を通じて、安全性の向上を図ることにより、利用促進を図ることが今後の高齢化社会で必要不可欠であると理解できます。また、行ってもよい距離も日常生活の相当程度をカバーできる可能性があることにより、高齢のクルマドライバーの事故防止のための免許返納の受け皿として、健康寿命の観点から極めて有効な手段であると考えられます。