自転車政策・自転車計画の提案

自転車政策・計画のあり方

1.自転車政策・計画の状況

(1)世界の自転車政策・計画

①自転車政策の流れ 

世界の自転車政策は、先進国を中心に1980年代以降大幅に進展してきています。

  年代 政策の項目 国別の傾向
1 1960年代 自転車走行環境整備(立派な専用道) オランダなど
2 1990年初 国家の重点介入・位置付け・目標設定 1990オランダ・北欧・米国 1996英2002独 2007仏
3 1990年半 自転車通勤の奨励策 オランダ、英国など
4 2000年前半 自転車通学の奨励策 自転車買い物奨励 米国、英国オランダ
5 2005年以降 健康と環境による奨励策 各国共通

すなわち、「自転車政策」といわれるものが、始まったのは比較的新しく、1960年代ぐらいのオランダといわれています。もちろん、いわゆるサイクリングというようなレジャーや観光のための自転車の活用策(サイクリングロードなど)はもっと古くからおこなわれていましたが、都市交通としての自転車の都市内ネットワークの整備などはこのころからです。オランダでは、平坦な地形を利用して、自転車利用を盛んにしようと、地方を中心に、自転車走行環境の整備が進められました。立派な自転車専用道や立体交差の自転車道などが設けられました。しかし、国全体のものではなく、一部の地方での自動車との分離策として行われ、また、自転車走行空間の整備というハードの側面に重点があり、何の目的でこれを作るのかなど、自転車政策としての自転車の利用目的や利用目標などは明確ではなかったのです。また、地方を中心としており、公共団体での大きな落差も指摘されています。1990年代になると、オランダでは、第1に、自転車を何のために利用するかという利用目的、第2に、国レベルでの位置づけを明確にして、推進することを国の自転車計画を策定して明確かつ施策の体系化が行われました。そして、オランダに次いで、北欧や米国、さらにオーストラリアなどでも自転車の位置づけを交通手段として明確化するとともに、国レベルの自転車計画が策定されました。さらに、遅れて、1996年には、英国で国家自転車計画、2002年にはドイツが同じく、国家自転車計画が策定されるなど、国レベルでの自転車政策が推進されます。ここで特徴的な点は、自転車走行空間の整備を前面に出すのではなく、自転車通勤の推進などの利用目的を明確にして、これに必要な空間を整備したり、通勤のための税制等を設けるなど、目的とハードの施設、さらにソフト施策が総合的に実施されました。そして、病気予防や環境のために自転車利用を盛んにすることが言われだしたのは、2005年前後と比較的新しく、最近のことです。また、国が自転車政策を主体的に進めることにより、地方でも自転車利用を推進する環境都市がどんどんと台頭してきます。オランダやドイツのような先進国とさらにデンマークのコペンハーゲンやイギリスのロンドンなど、米国のポートランドなどで先進的な自転車計画の策定や施策の推進が行われています。

このように、各国では、国レベルで、かつ、計画を策定して、自転車の位置づけや目標値をしっかりしたうえで、自転車利用の目的を設定して、自転車政策を推進していることが多いのです。

②自転車計画

 国レベルでの自転車計画の策定状況は、次の表の通りです。

ドイツ及びフランスを除いては、1990年代から国が自転車利用を推進する計画を策定しています。

 

オランダ 1990年「自転車マスタープラン」制定。2000年自転車施策は国から、自治体でつくる自転車協議会に移行
ドイツ 2002年「国家自転車利用計画」策定。2012年改訂し、2013-2025の計画を策定
米国 ISTEA法(1992-97)、TEA21法(98-03)、SAFETEA法(04-09)連邦法制定。1994年連邦政府「国家自転車・歩行者調査」
英国 1996年「国家自転車戦略」策定。2005年には体制を改定。
フランス パリ市自転車計画の策定(2002~2010)  2007国レベル取組みを開始し、計画を策定。
デンマーク 1990年代に自転車安全戦略を制定。
ノルウェー 2003年の国家交通計画の中で国家自転車戦略を策定(2006年~2015年)
オーストラリア 1993年国家自転車戦略を制定(1999年(1999-2004)と2005年(2005-2010) 改定)
ニュージーランド 2005年国の歩行者自転車利用促進計画を策定。
(参考) 日本  国レベルの自転車計画は未策定

出典 古倉「成功する自転車まちづくり」(学芸出版社)2010 p191

 

 すでに、国が策定した期間が終わったものもありますが、国が乗り出したことが重要です。自転車先進国のオランダやドイツでも、長らく地方公共団体に自転車政策を任せていたのですが、地方公共団体間での自転車施策に大きな落差があり、国全体ではなかなか進まなかつたため、国が自ら乗り出して、国レベルの計画を策定しました。ここが重要なポイントです。

 地方では、自転車を進める意識が高いところと、以前としてクルマ社会を変えようとしないところがあります。国が推進することにより、国全体の健康や環境の推進をはかることができます。これは、総論で高齢化社会や地球環境時代を迎えて、抽象的な呼び掛けをするのではなく、具体にこれを進める手段の利用を盛んにすることが必要です。

 国が主導して、一定の期間又は継続的に推進することで、地方の施策も進展し、自転車利用が地域の人々の間に根付くものです。

   出典 古倉「自転車利用促進のためのソフト施策」p105 IRTADより古倉作成。30日死亡。       

   

また、交通安全についても、国レベルで推進し、一人あたりの自転車の利用距離が延びている国、すなわち、自転車利用が盛んになっている国では、自転車事故死者の比率が飛躍的に下がってきます。ただし、日本は後にいうように、歩道中心の自転車利用が行われており、自転車利用が増えても、この状態が続く限り、自転車事故が高水準で続くでしょう。

 

  自転車事故死亡者数 減少率
  1980 2002 2009 80-02 80-07
日本 1366 1305 933 0.96 0.68
米国 965 665 630 0.69 0.65
1338 583 462 0.44 0.35
709 223 162 0.31 0.23
英国 316 133 104 0.42 0.33
425 169 138 0.40 0.32

これらの国では、具体の目標値を設定しており、これが自転車施策を具体に進める根拠になっています。

国名 目標の内容
オランダ 2010年までに1986年に比較して①自転車利用を30%、鉄道利用を15%増加 ②自転車交通事故死亡者を2010までに50%削減
ドイツ 自転車交通の分担率を隣国のオランダ並みにする(1997年17%→2012までに27%)
アメリカ ①自転車と歩行者の合計のトリップ数割合を倍増(7.9%から15.8%)②      自転車と歩行者の交通事故死傷者数を10%削減
英国 ①1996年と比較して、2002年までに自転車トリップ数を倍増、さらに2012年までに倍増する②全交通事故死者及び重傷者の40%削減1994-98年平均対2010年
ノルウエー ①全国の自転車分担率8%、自転車都市の分担率50% ②事故数を自動車以下にする。
デンマーク ①3キロ以下の自動車トリップの1/3を自転車に。②自動車以外の交通安全の向上
オーストラリア 自転車の利用率を2倍にする。
(参考)日本 国レベルの目標値はない

出典 各国の自転車計画等により、古倉作成

 ここでのポイントは、自転車の分担率の目標と交通事故削減の目標をセットで定めている例が多いことです。

また、世界の自転車先進都市でも、これを受けて、自転車計画の策定が盛んです。

都市・地域 目標値(分担率)
英国 ロンドン 80%増(2010)200%増(2020)
ロンドンシティ 自転車の通勤数3倍トリップ数2倍(2010)
チェシャー 自転車通勤割合10%(2011)
ノッティンガム 自転車通勤割合10%、特定企業20%
デューラム 自転車通勤・通学割合2倍(2007)
ベルリン 自転車交通分担率50%増15%に(2010)
デン コペンハーゲン 自転車通勤割合40%に(2012)
ニューヨーク州 自転車等通勤割合15%増8.5%(2015)
ニューヨーク市 自転車通勤2倍(2007~2015)、3倍(2020)
サンフランシスコ 自転車日常移動3倍全移動の10%(2010)
ポートランド 自転車市街地分担率5%(2001)10%(2006)15%(2011)
クィーンズランド 自転車移動50%増(2011)2倍(2021)
クライストチャーチ 自転車通勤10%(2011)自転車通学24%(2014)

出典 古倉「自転車利用促進のためのソフト施策」(ぎょうせい)

 

(2)日本における自転車施策

 世界の自転車の先進国や先進都市では、自転車計画等が策定され、自転車政策がすすめられているが、日本での自転車政策の推進状況は、まだまだこれからという観が強い状況です。

全国の自治体に対して行ったアンケート調査によると、自転車の放置対策等のための自転車駐車対策は多くの自治体で実施されていますが、自転車利用促進策などの自転車施策は、3分の1程度の自治体でしか行われていません。

 

自転車駐車対策実施(予定を含む) 457 81.5%
自転車駐車対策以外の一般の自転車施策 184 32.8%
無回答を含んだ回収合計 561 100.0%

出典 自転車駐車場整備センター「地方公共団体の自転車駐車政策の動向及びこれに対応した自転車駐車場整備のあり方に関する調査」に基づき、古倉作成 回収率561/1067=52.6%

 また、その内容も、自転車の安全対策が多く、自転車利用を実質的に促進する内容を持ったものは、わずかです。

 2012年に国土交通省道路局の調査でも、自転車ネットワーク計画を策定済みの自治体(表の①)は、わずか4.2%であり、計画策定の予定も含めても、27.0%にしかなりません。

 

計画策定への取組有 229 27.0%
  ①計画策定済み(一般に公表したもの) 36 4.2%
  ②計画検討中または準備中 73 8.6%
  ③今後、具体的に計画検討を進める予定 120 14.1%
④今後とも計画を検討することを考えていない(未回答含む) 620 73.0%
849 100.0%

出典 道路局環境安全課「自転車ネットワーク計画の策定状況に関する調査」平成24年8月30日を古倉整理

 

以上のように、我が国の自転車政策及び自転車計画を推進する余地は極めて高く、これから、自転車のメリットの理解の推進とこれを基にした自転車政策及び自転車計画に対する取組の啓発や支援が必要であると考えられます。

2.自転車利用の現状と課題

(1)低い国民の自転車に対する意識

世界が自転車利用推進に向けて、クルマから自転車への転換を目指している中で、我が国の国民の意識は、自転車に対して、駅までの端末の交通手段程度の低い位置づけしか持っておらず、クルマの利便を自転車利用より優先している傾向があります。内閣府の国民アンケート調査によると、自転車利用者ですら64%の人が、また、歩行者やドライバーでは8割近くが、クルマの利便性を抑制してまでは、自転車の利用を推進ほしくないという意識を持っています。自転車はあくまでクルマのよりは劣位の位置付けの意識しかないのです。

  内閣府「自転車交通の総合的な安全性上策に関する調査報告書(参考資料編)国民アンケート調査 N=1501 MA

 

(2)自転車利用の現状

しかし、自転車に対する意識は低くとも、自転車保有の状況や利用の実態は高い状況です。世界の自転車の保有状況をみますと、自転車保有台数は、8700万台であり、一台あたりの人口では、日本は1.5人とオランダ程ではないですが、世界第6位となっており、世界有数の自転車保有国であり、また、自転車先進国並みの高い保有率を示しています。

  国名 保有台数 保有率(人口/台数) 統計年次
1 オランダ 1800 0.9 2008
2 ドイツ 7000 1.2 2008
2 デンマーク 420 1.3 2001
4 スウエーデン 600 1.4 1995
4 ノルウエー 300 1.4 1995
6 日本 8665 1.5 2005
6 フィンランド 325 1.5 1995
7 イタリア 2650 2.2 1996
8 フランス 2300 2.6 2000
9 イギリス 2300 2.6 2002
10 アメリカ 12000 2.7 1998
11 中国 40976 2.8 2006
12 韓国 650 6.9 1996

出典 自転車産業振興協会統計要覧43

 

また、一週間当たりの利用頻度も、自動車利用が多い豊橋市の市民アンケート調査でも多くの人が高い頻度で利用しています。

 (出典 豊橋市「自転車利用に関する市民アンケート調査結果」2012市民3000人対象、回収率33.6% 利用頻度を回答した自転車利用者)

また、利用目的も、買物が中心で、通勤通学等にも利用されています。

 ここで注意が必要な点は、いわゆるサイクリングといわれるレクレーション・観光としての利用は主たる目的にあまりなっていないことです。やはり、都市内での日常的な利用が中心であることが分かります。自転車の利用促進は、このような日常的な利用において、クルマから自転車への転換を図ることが重要であることです。

③課題

しかし、自転車利用を進めるに当たっては、様々な課題があることは、皆さんもご存じのことと思います。

1. 根強いクルマ依存型の社会=車なしでは生活不可
2. 自転車まちづくりの役割に対する過小評価=メリット少ないと思われている
3. 自転車利用者ルールマナーに対する過大不信=問題点多すぎと思われている
4. 国民の理解と行政の体系的総合的取組みの不足=断片的施策しか講じていないところが多い

出典 古倉整理

 根強いクルマ依存型社会の迷信、自転車の重要な役割に対する過小評価、ルールマナーや放置に対する不信、これを受けての中途半端な自転車施策などが課題です。

大きなメリットがある自転車の利用促進を進めるためにはこれらを払拭していく必要があります。

 

3.自転車の政策・計画のあり方

(1)世界の自転車政策・計画

今もっとも進んでいると考えられる都市としては、ロンドン、コペンハーゲン及びポーランドがあげられます。これらのそれぞれの計画の項目は次の通りです。

①ロンドン自転車革命の項目

ロンドンでは、「自転車はロンドンでの唯一の最も重要な移動手段である」とされ、クルマはもちろん公共交通よりも自転車を優先する考え方を取り、ここに「自転車革命」といわれる所以があります。

序・目標 (総論) 2026年までに自転車利用を400%増加(目標値)
①首都での唯一主要交通手段(位置付け)②各道路利用者の利用権尊重③死傷者数の削減(特に重量貨物車)④都市内に駐輪場増設⑤盗難対策⑥自転車を毎日の健康運動として推進⑦市のすべての行政施策に組込み⑧自転車施策への公民の最大限の投資促進⑨自転車施策の各種団体との協働⑩通勤レジャー等の新規ルート提供
1.ロンドン自転車革命の必要性 (総論)
  自転車利用促進の理由=メリット(市民、生活、交通、地球環境、生活、地域等)
首都全体での自転車利用可能性=19,000世帯、42,000人自転車交通需要の調査。地区ごとの自転車へ転換可能性
2.ロンドン自転車革命の施策内容(各論)
  3つの主要事業コミュニティサイクル+弾丸自転車道(通勤用)+特別区事業(各区が実施する事業)
10の一般事業=走行環境・駐輪空間・空間情報提供・通勤・通学・訓練・交通安全・マナー・盗難
自転車利用促進のイベント、地区での事業支援等、各種イベント、地区の利用促進キャンペーン
3.ロンドン自転車革命の実施方法(各論)
  協働する主体との連携=16団体(自転車協会、警察、貨物協会、議会、建築環境協会、健康団体、公園協会、環境団体等)
  他の移動手段との連携=鉄道、路面電車、バス、地下鉄(結節点に駐輪場等)
4.今後の自転車利用の目標値及び課題・方向性(目標と施策対象、目標達成の手段)

出典 「ロンドン自転車革命2010」(ロンドン市)に基づき、古倉整理

②コペンハーゲン自転車政策の項目

2002年から2012年まで10年間の計画では、次のような項目が挙げられています。

徹底して自転車利用者のことを考えて推進する「世界一自転車利用者にやさしいまち」としい打ち出しています。

コペンハーゲン自転車政策2002-2012
総論 自転車位置付け 市の交通の中心的役割を担う
自転車のメリット自転車転換の条件 手軽、時間節約、生活環境の質的向上
安全性・迅速性・快適性・健康・都市の体感
各論 自転車戦略2012の重点施策 5 駐輪場の整備
1 自転車用車線と自転車レーンの整備 6 信号機のある交差点の改善
2 自転車専用道の整備 7 自転車用車線の一層の良好な管理
3 市の中心部の自転車利用環境の改善 8 自転車用車線の一層の良好な美化
4 自転車と公共交通機関との連携 9 キャンペーンと広報
           

コペンハーゲンは、現在次の自転車戦略を策定して、新しい自転車政策のあり方方向性を打ち出している。基本的なコンセプトは、「世界最高の自転車都市」であり、明確な位置づけ・優遇と自転車利用者のことを徹底して考えている点が特徴です。

コペンハーゲン自転車戦略2025目標値(最近策定)
1 コペンハーゲンにおいて、自転車通勤する人の割合を35%から50%に増加
2 自転車利用者の重傷や死亡の危険性を2005年の70%まで減少
3 安全性、迅速性、快適性の満足度+自転車文化の環境への影響

 

出典 「コペンハーゲンの自転車政策2002-2012」及び「自転車戦略2025」2011を基に古倉整理(古倉「自転車先進国における自転車政策の新たな展開」サイカパーキング㈱)

 

③ポートランド市(米国オレゴン州)

極めて新しい自転車利用のコンセプトが提示されており、参考に値する計画です。20分近隣住区など都市計画との整合性を図り、この近隣住区の移動を自転車を中心に考えることや他の政策との連携を唱えるなど、斬新的な政策が内容となっています。また、人口60万人の規模の都市では、あまりにも壮大な962マイル(1500km余)のネットワーク計画を持ち、2030年に向けて整備を進めています。延長では、都市レベルとしては世界第二位であると考えられます。

総論一 1.自転車の具体的なメリット
2.自転車計画の改定手続き
3.自転車の課題項目
総論二 1.広範な施策体系
2.自転車政策の位置付け
3.自転車走行空間の分類
利用環境整備策 1.自転車空間ネットワークの拡大
2.自転車走行空間の基準
3.自転車駐車場
4.自転車と他の交通手段との連携
5.環境にやさしい交通手段のネットワーク
6.自転車走行空間の運営・管理
7.中心市街地における自転車道
促進策 1.自転車利用の奨励
2.安全教育と義務化
3.自転車利用者のための案内標識・標示
実施策 1.実行のための全体的取組
2.自転車道の整備の実施基準
3.ネットワーク形成の実施戦略
4.戦略実行シナリオ
5.評価と測定

出典 古倉「ポートランドの自転車政策」(サイカパーキング㈱「自転車・バイク・パーキングプレイス駐車場」2012.6月号~2013.5連載中)

 

これらを対岸のものとしてみるのではなく、その内容について世界の自転車政策を冷静に見る必要があります。各国や各都市がかけ離れた特別のことをしているとは思えません。日本でもできるものがいっぱいあると考えます。一番に大切な点は、最初に自転車の具体的なメリットに基づく、自転車の位置づけをクルマとの関係で明確に出すことです。すなわち、クルマのマイナス面(もちろん自転車にはないプラス面も持っています)を自転車への転換がカバーし、積極的に活用することで、大量のかつ多様なメリットが得られるのです。この点さえはっきり出すことができれば、中距離(例えば、5㎞以下)でのまちの移動手段の主役として利用できる政策や計画を打ち出すことができるのです。これをしっかりとサポートするこができれば、あとは、そんなにむずかしいことではないと考えています。

 

(2)自転車政策・計画のあり方

これらをみると、総論がしっかりしており、自転車がクルマよりも施策上優位な位置付けが与えられ、これに基づき各論が実施されていることです。世界の自転車計画に基づいて、これらに共通する重要な項目やポイントをまとめて、自転車計画の構成を上げるとすると、次のようなものが提案できます。

 ポイントは二つです。一つは、総論を重視することです。ここで、自転車のメリットを具体的かつ明確に説明し、これに基づき、自転車をクルマに対して優遇するなどの位置付けを具体的に示すことです。決して、自転車の放置やルールマナー、事故などを冒頭に出さないことです。自転車利用を促進する計画で、自転車はこんなにマイナスがいっぱいあるということを述べ、また、そのメリットの説明の何倍ものページを割いて述べることは戦略としては間違っていると考えます。これは各論の課題として解決すべき施策をセットで提示すべきです。二つは、各論で、自転車を何に活用しようとするかの使用目的(通勤、通学、買物、観光など)を明確に出して、これに合わせて、各論の項目を取捨選択すべきです。全ての目的のためにハードソフト施策を駆使するような壮大な内容は、一見素晴らしいと思われるかもしれませんが、継続性や浸透性、施策の重点化にとって、マイナスです。たとえば、具体的に買物に絞り、この目的のために必要なソフト施策やハード施策を組み立てることが望ましいと考えられます。買物に絞れば、自転車による買物を奨励するための受け入れ側である商業事業者と協働で施策の展開を図れたり、中心市街地の活性化のための自転車施策の展開項目も明確に出せます。また、ハードの走行空間や駐輪空間も予算規模に合わせて、必要なものをネットワークで確保できます。決して欲張らないことと具体的な施策を打ち出すことです。

一つの目的がうまくいけば、次の戦略として、別の目的のための自転車施策を重点にして展開することです。

一総論 自転車活用の目的、位置づけ・目標 ①目的 自転車の活用の目的(大前提)
②メリット 具体かつ多くの内容、自転車へ転換の大義名分
③位置付け 自転車優遇、自動車・公共交通との関係
④目標設定 自転車の交通分担率、(走行空間延長等は手段)
二各論 用途別施策 ①通勤 ②買い物 ③通学 ④観光・回遊・レク ⑤営業・業務等
空間別施策 ①空間(下物インフラ) 走行空間+駐輪空間
②手段(上物) 所有自転車+レンタサイクル (コミュニティサイクル) 
課題別施策 ①自転車の放置 ③自転車ルールマナー
②自転車の安全性 ④雨等の天候、勾配 等

出典 古倉「成功する自転車まちづくり」に示した施策構成により整理。ロンドン自転車革命2010などもおおむね上の項目に当たるものを採用。

 

 まお、課題の項目はつては、課題ごとに施策とセットで、その解決方策を提示することが必要です。総論の中に、これらを入れ込むと、自転車利用促進計画は推進上きわめて重いものとなります。

その他、自転車政策や計画のあり方は、重要なカギがいくつかあります。